入須冬実は本当に冷徹で非情な人間だったのか - 靴ひも

靴ひも

Life, Music, Book, Gadget

スポンサーサイト このエントリーのはてなブックマーク数

Category : スポンサー広告 | on

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

入須冬実は本当に冷徹で非情な人間だったのか このエントリーのはてなブックマーク数

Category : Anime | on


はい。
納得がいかないので色々書きます。

本郷と入須のチャット


vlcsnap-2012-07-03-20h21m32s38.png


冒頭には本郷と入須がチャット(アニメはメール)をしているシーンが入る。
内容は、本郷が書いた脚本と映画の内容が乖離してしまった。本郷は気の弱い人間なので、クラスメートにノーと言えず、もうどうしようもないというところだろう。仮に、ここで入須が折木供恵の言うように、本郷の脚本を駄作だと感じ、シナリオコンテストを開くことにしたにせよ、彼女にはそれを行うインセンティブがないのだ。

「入須さん、あまり学校行事には興味がないって言ってましたもんね。」

愚者のエンドロール / 千反田える


「私はそれでいいと思う。彼らは彼らのものを作りたいだけなのだから、好きにやればいい。その結果、見た者に嘲笑されることになったとしても、彼等自身もそんなことは気にしないでしょう。自己満足の世界よ。馬鹿馬鹿しいことだけど、それは許されていいことだと思う。」

愚者のエンドロール / 入須冬実



所詮、自己満足の世界。
彼女が本当に冷徹で非情な人間なら、まずこの時点で本郷の相談を無視するだろう。

ここで彼女は、自分の立場を「私は、あのプロジェクトを失敗させるわけにはいかない立場でした」と言う。これは彼女の本心だが、そもそも無視していいはずの問題で、入須には何のメリットもない。しかし、クラスメートのために出来る限りのことをする彼女の姿勢が伺える。

そして、この姿勢は続編『クドリャフカの順番』での彼女の姿勢とも一致する。
千反田から「限りなく積まれた例のあれ」の販売に強力して欲しいと頼まれた入須は、頼みをあっさり快諾する。勿論、古典部に恩義を感じているのかもしれないが、自分には本郷との一件を考えると、これが彼女の本当の姿だと感じる。

「はい。入須さんというより、二年F組さんにお願いなんですが」
私は大きく頷きました。ここが大事です。
「『限りなく積まれた例のあれ』を、売って下さい」
入須さんは、ぱちぱちと二度まばたきをすると、すぐに言いました。
(中略)「わかった。◯◯だ」
(中略)きのうはあっさり断られていたものですから、こう即断で引き受けて下さると、対処に迷ってしまいました。(一部ネタバレ防止)

クドリャフカの順番 / 千反田える・入須冬実


入須の真意・ホータローのミス


以上から分かることは、「私は、(本郷のために)あのプロジェクトを失敗させるわけにはいかない立場でした」ということだ。彼女は元々その立場だったのではなく、本郷のためにその立場に「なった」のだ。

その真意が折木供恵に伝わらなかったからこそ、彼女は唇を噛みしめる。
伸ばした手は空を切る。

vlcsnap-2012-07-03-20h28m13s214.png


映画がダメになることで、責められるのは途中で脚本を投げ出した本郷。
そして、彼女自身も自分を責めるだろう。彼女のことを想うと、それはなんとしても避けないといけない。そのためにシナリオコンテストを開き、ホータローの「才能」を扇動し(「あじでしょう」)、最終的には折木供恵から思ってもみなかった辛辣な言葉を投げられる。なんと健気な女の子でしょうか。え、ホータローが可哀想?知らんわ!

「あなたはこの店で、スポーツクラブの話を例に出して俺を説得しましたね。能力のある人間の無自覚は能力のない人間には辛辣だ、と。いまなら言えます。ご冗談でしょう、入須先輩。自覚がどうだというんです。辛辣だからどうだというんです。『女帝』の異名を取るあなたが、そんなセンチメンタリストなはずがない。」

愚者のエンドロール / 折木奉太郎


こんなにも感傷的で、センチメンタリストな入須をこう断じるホータローは腹を切って死ぬべきです。仕方ないですね、童貞だし。人の気持ちに少し鈍い人間であることが露呈する。

「江波さんは本郷さんとは親しかったんですか」
その問いに江波は暫時、戸惑いを見せた。同様というほどでもないが、言葉がどこかひっかかる感じになる。(中略)「本郷は生真面目で、注意深く、責任感が強く馬鹿みたいに優しく、脆い、わたしの親友です。」

愚者のエンドロール / 江波倉子・千反田える


確かに、そうだ。例えば江波は本郷を友人と呼んでいた。トリックだけを知りたいんだったら、本郷に聞く術があっただろう。もし、本郷がそれさえ受け付けないほど重篤に神経を病んでいるのだったら…。本郷を親友と呼んだ江波の態度は、暢気に過ぎる。千反田が本郷とはどういう人間だったのかを江波に訊いたとき、江波は言葉で言って何がわかると腹をたてていた。

愚者のエンドロール / 折木奉太郎


vlcsnap-2012-07-03-20h24m28s10.png


ホータローは、千反田が「何を」気になっているのかをこの時点で気付くべきだったのだ。
「Why didn't she ask EBA?」
古典部シリーズは、こうした人の気持ちに鈍い主人公が、様々な人間と関わることで変わっていく物語でもある。

才能・無自覚な力


しかし、これで本郷が本当に傷つかずに物語を終えたのかについては難しい。
元々「人が死なない物語」を書いていた本郷は、クラスメートの暴走により物語を歪曲され、自分ではどうしようもなくなった。それは「人が死ぬ物語が嫌いだ」ということ以外に、やはり彼女自身の技術の乏しさも影響しているだろう。(勿論、彼女は好きで物語を書いていたわけでもなく、入須は『最初から適材適所ではなかった』と発言する)

自身の技術のなさを痛感した本郷と、そこに現れた「脚本家」ホータロー。
「万人の死角」を見た本郷がどんな感情を抱いたか。これ以上は読者や視聴者に託される。
勿論、自身の技術のなさを痛感したのは本郷だけではない。
この『愚者のエンドロール』では様々な人間が、「無自覚な力」に傷つけられているというのも、本作の面白いところ。

11.jpg


それぞれの視点で読み解いていくと、また違った世界が見えてくるのではないかと思う。小説とアニメではラストの「ホータローvs入須」の結末や、細かい描写が少し違うことにも注目したい。

鴻巣と海藤の関係


鴻巣と海藤の立ち位置に色々な人物を当てはめると面白い。

鴻巣=クラスメート、海藤=本郷

クラスメートから物語を歪曲されても彼らを庇い、「一番の望みはみんなで、ばんざいすることでしたから」と笑う本郷の姿は、鴻巣と海藤の姿と重なる。

鴻巣=クラスメート・本郷、海藤=入須

これは少し無理やり。鴻巣を庇うという姿勢は入須にも通じる。
海藤は傷を負うが、入須は少なからず折木兄妹から反感を買ったことだろう。しかし、彼女はそれを承知の上で、本郷を助けたのだ。

「人を刺すわけ、自分を刺した人を逃がすわけ、それを本郷さんがどう描こうとしたのか、とても、気になりますが」

氷菓#11「愚者のエンドロール」/ 千反田える


「クラスメートを刺すわけ、自分を刺したクラスメートを逃がすわけ、それを本郷さんがどう描こうとしたのか、とても、気になりますが」

愚者のエンドロール / 千反田える


最後の千反田の台詞は微妙に修正されている。
「クラスメート」が「人」という一般形になり、より暗喩が効いている。

vlcsnap-2012-07-03-20h35m52s207.png


かくして、「万人の死角」は奇しくも古典部と 2-F を巻き込んだ一連の事件と全く同じ構造となってしまったという皮肉のきいたオチとなる。そして、タロットカードが示した通り、やはり入須冬実先輩は女帝だったのだ。


愚者のエンドロール (角川文庫)愚者のエンドロール (角川文庫)
(2002/07/31)
米澤 穂信

商品詳細を見る


関連記事

Comment

. says... ""
非常に興味深く記事を拝読いたしました。
私は逆の意見の者ですので逆説を残しておく事にします。
まず本郷のシナリオを切ったのはツマらなかったからという点は入須自身が試写会の時点で
十戒、20則、9命題という言葉を連ねていますが、当然これは本郷には無い知識です。
それらはコナン・ドイルの時代のミステリの約束事などではありませんし、ミステリに疎く
ホームズをシナリオの参考にするような本郷が知る由もないことです。
即ち、入須にはミステリの知識が十分にあったことを示し、彼女が古典部を巻き込むための
嘘として脚本から乖離したビデオの辻褄が合っていると吹き込むためのものです。
要するに入須には人間ドラマを描きたかった本郷のシナリオはミステリとしては面白みが無
いと判断する能力があります。
さて入須は学校行事自体に興味が薄く、この映画についても北海道に旅行に行ってた訳で、
ほぼ関わっていません。
ですので映画の成り行きについては興味ないのも事実でしょう。
その上でこの騒動を引き受ける動機について情で動いたとするのが やっそ様を始めとする
方々でしょうが私はそうは思わないのです。
女帝入須は自分より立場が下の人間に懇願されると安請け合いする性格に思えるのです。
クドリャフカの順番にて千反田に頼まれて氷菓を置く事を快諾します。
そして更に依頼方法のコツについて聞かれて相手にやる気を出させて如何に利用するかを
得意満面に説明します。
そうして頼まれた事がすぐにでも解決できるなら何も問題は無いのですが手に余ると他者
を利用し面目を守る。
「私は、あのプロジェクトを失敗させるわけにはいかない立場でした」はそう言う風に
読み取る事も可能なのです。
そもそもクラス内では脚本の本郷を誰も責めていませんし、むしろよくやっていると評価
しています。
本郷が気弱で自分で言えないというのなら江波ないし入須がクラスの皆に事の真相を説明
しても特に本郷を責める方向にはならないでしょう。
それこそ入須が上手く言いくるめて波風を立たせず建設的にナリオコンテストをして、
あの候補達の微妙な脚本で映画自体は完成させた事でしょう(当然、内容は面白くはなら
ないでしょうが)。
しかし、学生の作品なんてそんなものであり、それこそ入須の言うところの自己満足は
許される話なのです。
が、それでは困る立場と言いますか立つ瀬が無いのが入須です。
本郷に頼まれたのに結局真相を明かしてしまっては請け負った意味がありません。
ミステリの知識が十分にある入須にはクラスメイトのシナリオもボツです。
関わった以上、失敗は女帝のプライドが許しません。
そこで折木の姉に本郷を守る為と嘘をつき、その弟にも真相を明かさず言いくるめ、まんま
と斬新な脚本を手に入れたと読み取る事も可能なのです。
これもある意味で情で動いているとも言えますが やっそ様の考えとは180度方向が異な
ります(折木姉弟はこの結論に達したのだと思います)。

長々大変失礼いたしました。
結局は私の逆説も推論に過ぎず決定的ではありません。
要するに見方の問題に過ぎない話です。
真相は作者の頭の中でしょうが、それは明かされることは無いでしょう。
最後に重ねて、長々読みづらい文を残す無礼をお詫びいたします。
ごめんなさい。
2012.07.23 03:52 | URL | #ddAuDCqw [edit]
says... "承認待ちコメント"
このコメントは管理者の承認待ちです
2013.12.09 17:33 | | # [edit]
says... "承認待ちコメント"
このコメントは管理者の承認待ちです
2016.04.16 18:19 | | # [edit]
says... "承認待ちコメント"
このコメントは管理者の承認待ちです
2017.08.01 19:02 | | # [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://bouncelife.blog119.fc2.com/tb.php/898-5ac4c648
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。